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地図編集、地図デザインとは

地図ってなに?

 誰もが地図を知っていて、誰もが地図を見たことがあるはずです。しかし、「地図ってなに?」と聞かれると明確に答えられる人はいるでしょうか。当たり前のように身近にある地図なのですが、なかなか説明できませんよね。

 小学校、中学校で地図について教わったでしょうか?試験対策のために地形図の簡単な読図は少しだけ教わったかもしれませんが、地図とは何であるかなんて教わらないですよね。

 教わることが少ない地図ですが、学校で配られる地図帳はれっきとした文部科学省検定済教科書なのです。けっして社会科図説資料集ではないのです。にもかかわらず地図帳で地図の授業をすることって少ないですよね。ですので、地図は知っていても地図について説明することは難しいかと思います。

 また、地図は地形図など精密に地表が表現されたものから店のチラシの案内図のような簡易なものまで多岐に渡りますので、地図について一言で言い表せないのはもっともです。

 さて、地図とはなにかと教える場合には下記のように説明します。

 

地図とは、一定の約束に従って、地表の形態やそこに展開される自然、人文活動を可視化するために、一定の平面上に文字、記号、線、図形、着彩などで表現し、作成したものである。

 

 一定の約束とは、投影法、図式、縮尺、方位、図取(掲載範囲)などで、それらの条件の下、地表の形態などを図示していきます。

 地表の形態は土地の起伏や土地利用、植生など。その地表に展開される自然は河川や湖沼、海岸線、氷河、崖地など。人文活動は、交通、建造物など地表に現れているものから行政界や地下施設など見えないものなどを文字、記号、線、図形、着彩などで平面上に図化します。

 広い大地には無数の情報が存在します。それをちっぽけな紙切れに描き表さなければなりません。そのためには、無数の情報を取捨選択し、大地を図化(記号化)します。そうすることで、その土地の概観を理解することができるのです。

 つまり、土地を知るために大地を図で描き表したものが地図なのです。

1)地図編集

 地図はとても広い大地を小さな紙切れに描き表せなければなりません。その地表には、起伏があり、水部があり、植生があります。そして、その上には人が作り出した農地や建物、交通路といった構造物があります。さらにそれらには名称がついています。目に見えるものだけではなく、人々を管轄する範囲である行政地が存在し、目に見えないラインが設定されており、地名が付けられています。このように、広い大地には地表に現れているものから、見えないものまで、無限の要素があるのです。それのすべてを小さな紙切れに描くことは絶対に不可能です。そこで、何を地図に載せるかを判断、選択しなくてはなりません。

 判断の要素として、1縮尺(大きさ)、2作成地域の範囲、3作成地域の規模、4地図の使用用途、5使用対象者によって載せる判断基準を設定します。その基準をもとに投影法決め、図取(地図の寸法と掲載範囲の決定)をし、1〜5に見合った文字、記号、線、図形など入れる要素と量を決定します。

 これらを決めておくことを編集基準といいます。しかし、基準に当てはまらないがどうしても採用したい事項、基準要素が集中してしまう事項(例えば、人口10万人以上の市を採用とした場合、首都圏や京阪神では地図上に入れられない可能性がありますよね)など、イレギュラーな事が必ず起こります。あくまでも参考基準とし、編集基準に縛られすぎないようにすることも大切です。

 次に掲載物のカテゴリーごとに図式(文字、記号、線、図形の色、大きさ、太さ、種類)を決めます。

 さらに、使用用途に応じて掲載する要素の格付けをします。つまり重要度を設定します。地名であればフォントの大きさ、太さで差をつけます。線であれば太さ、色、形状で重要なものを目立つようにします。

 

2)総描

 広い大地に展開する状態を測量し地図に描き表したものを測量図といいますが、縮尺が小さくなる(分母の数字は大きくなります)ほど測量成果を描き表すことが困難になります。また、地図の使用用途によっては測量成果を完全に無視をして地図を大きく変形させることもあります。

 小縮尺の地図を使いやすく、見やすくするためには、大縮尺の地図をそのまま縮めて使用することはできません。文字は小さくて見えなくなり、線も細すぎて印刷に耐えられない、図形もゴミのように見えてしまいます。そうかといって文字の大きさ、線の太さを変えずに縮小すると隣接する文字や線同士が重なり合ってごちゃごちゃになり読図が困難、というよりも不可能になります。そこで、縮尺や使用用途に応じて地図を改変しなければなりません。それを総描といいます。

 総描するためには、地表の特徴を損なわないようにしながら、改変しなければならず、地理学と地図作図の経験が豊富にないと難しい作業になります。よく言われるきれいな地図ときたない地図の差は、地図作成における総描力の差だといっても間違いはないと思います。

 さて総描には、①省略化、②簡略化、③統合化、④転位という技法を用いて地図を見やすくします。さらに、使用用途に応じて⑤誇張化もする場合があります。

 

 ①省略化について

 地図編集で述べた判断と選択ということになります。載せる要素の取捨選択をすることです。それは地名や交通線だけではなく、河川や湖沼、島なども縮尺や使用用途に応じて省かなければなりません。そこで何を省くか、それを判断することが地図編集なのです。

 使用用途や縮尺、可読性を考慮し省く地物を選定していきますが、自らが設定した編集基準に該当しないものも採用しなくてはならない場合があります。例えば、採用の島を面積で設定します。そうすると、沖ノ鳥島や竹島、尖閣諸島など日本の国土を示す上で重要な島が削除されてしまうということが起こってしまいます。ですので、編集基準に縛られず、重要と思われるもの、地図のバランス的に入れておきたいものは採用しなければなりません。

 ②簡略化について

 特に自然の形状は複雑で細かいものです。地図を縮めるとそう形状が災い、地図が汚く見えてしまいます。例えば河川の蛇行。そのまま縮小すると河川路がくっついてしまいます。そこで、正確な流路ではなく、見やすいように屈曲の形状を単純化して見やすくするのです。しかし、穿入蛇行が特徴の河川をまっすぐに簡略化してしまっては本末転倒です。あくまでも特徴を損なわないように簡略化するテクニックが必要となります。

 ③統合化について

 地図を縮小するにつれて密集しているところが潰れてしまい、形状の判別がつかなくなります。また、地図上に記載された様々な区分が細かくなりすぎてしまいます。すると、その地図からの読図が困難となり、わかりずらく、地図閲覧に嫌気がさしてきます。

 そのため、細かく分布しているものをまとめて見やすしなければなりません。土地利用や植生などまとめることにより、その地域の特徴が明確に表すことができます。

​ ただし、まとめてはいけないものもあります。たとえば、湖沼や島嶼などが密集しているからといって、一つにまとめてはいけません。まとめてしまうと形状が全く違う島や湖になってしまうからです。

 ④転位について

 web地図やカーナビが普及し、地物の位置情報が重要視されています。しかし、縮尺が小さくなるにつれ、近い位置の地物は磁石のNとSのようにくっついていき、さらには重なってしまいます。するとどうでしょうか、くっつき合った地物がどちらなのか、わからなくなってしまいます。例えば、道路と鉄道が並走しています。小縮尺になると重なってしまい、道路と鉄道が重なってしまい、路面電車になってしまいます。

 ではどうするか、磁石の同極同志のように離してしまいましょう。位置情報の観念からすると誤りなのでしょうが、編集図は見る人のための地図であり、見る人がわかりやすいようにすることが求められます。

 ⑤誇張について

 実測図を作っている人たちからすると「編集図は地図ではない」と思われていることでしょう。社会科教育の中でも実測図は教わりますが、編集図については習うことは少ないかと。世の中でよく見る地図のほとんどが編集図にもかかわらず。なぜ編集図は地図学において疎外されているのかというと、私が思うのには、誇張が所以しているのではないかと。何しろ、科学的に測量をした成果を編集者の意思で勝手に改変してしまうのですから。「そんな嘘を描いちゃだめでしょ」となるわけですね。

 でも、そんなことは百も承知の上で、伝えたいこと、知ってもらいたいことを表現しなければなりません。それこそが小縮尺の地図編集なのです。

 さて、誇張ですが、例えば、沖ノ鳥島や竹島を小縮尺図では大きめに描きます。小さすぎて点にもならないのですが、日本にとっては重要な島です。見る人がわかりやすいように実際よりも大きく改変しなければなりません。​そのほか、小縮尺では表現不可能な地形なども主題にする場合は、可視できるように表現します。アニメで、悪役たちがやたらと大きく描かれています。大きくすることで、恐怖感が増します。実際の人間の大きさではないですよね。それと同じことを場合によっては地図でも行うことがあります。誇張の大きさもその地図の利用法によって変わりますので、すべての編集図が誇張を乱発していいわけではありません。

3)地図デザイン(地図表現)

​ 地図をデザインするというと多くの方は、地図の色彩を調整したり、変形させたり(カルトグラムという)することが地図デザインだと思われていることでしょう。もちろん色彩の決定や地図を変形することも地図デザインです。しかし、それだけではないのです。地図デザインをすることは地図編集、地図作図をすることなんです。よく出版編集者がブックデザイナーに簡単に地図デザインを依頼したりしていますが、地図学的な誤りが多く散見されます。一方地図編集においても地名の取捨選択をすることが地図編集なのですが、地図をデザインすることも地図編集であることを理解していただきたいです。いくら地名の選択を適切にしても地図が美しくなければ、利用できる地図にはなりません。つまり、地図編集と地図デザインは同じことなのです。

 ではそれぞれを分業すればと思われがちです。確かにその通りで、同じ規格で地域ごとの地図を作る場合は、しっかりとした編集基準を編集者とデザイナーの両者で決めることは重要です。しかし、私は地図(特に編集図)は絵画同様芸術品であり、作り手の意図を注入すべきだと考えています。ですので可能な限り一人の人間が作り上げた方が理想的ではあります。たとえ分業だとしても地図の編集とデザインをしながら作図できることが大切で、そういう人がカートグラファーなのです。

 さて、地図の編集、デザインすることを地図表現といいます。それでは地図表現について解説していきます。

 ①文字割付

 地図上には地名や施設名を中心に多くの文字が配置されています。

 文字の置き方は地図の美しさの重要な要素で、文字を美しく見やすくわかりやすく配置するデザイン力が地図作りでは必要となります。地図編集によって選定された地名や施設名などをバランスよく配置すること、バランスよく配置できるように地名などの選定をする編集力。つまり、編集力とデザイン力が一体とならないと地図に文字を配置することが難しいのです。

 このように地図上に文字を配置することを文字割付(字割)といいます。文字割付には点、線、面とあります。点は特定の位置を示すもの、線は線状の地物(線記号)を示すもの(線状注記という)、面は広範囲の名称を示すものです。文字割付をする順番も1点、2線、3面の順番で割り付けていきます。

 地図上の最多文字は点を示します。点記号など示す場所の右側に置くのが基本ですが、他の文字や線記号などとの重複などを避けるためにより可読性が高くなるような位置に文字を配置します。文字が混雑してくると配置困難な状態にもなりますが、そのような悪条件でもより見やすく配置できるデザイン力が求められます。

 地図に配置する文字(注記という)は基本的に横組です。縦横の文字が混在していると見た目には美しくなく、混雑や線状注記で縦位置に置かなければならない場合でも極力横組にしたほうがよいでしょう。45度傾いたら横組から縦組にしましょうという人もいますが、わたしは75度くらいまでは横組でOKだと思っています。しかし、縦組にしたほうがよい場合もあります。たとえば、商店街の地図を作ったとします。商店街のメイン通りを横に一直線に描きます。通りに面した商店を注記する場合、横組にすると通りに平行となり読みづらくなります。この場合は通りに垂直にすると見やすくなるので、縦組に配置していきます。それでも横組に、という場合は45度以上傾けるとよいでしょう。

 線状注記

 河川や交通線に沿って文字を配置することを線状注記といいます。線状注記には、線の形状に合わせて線と平行になるように傾けて(字傾という)配置する方法と各文字を正向きのままで線の横に階段状に配置していく配置の方法がありますが、基本的には前者を用います。後者は線が不規則な曲線の連続で、かつ上から下(縦文字)に文字を配列する場合のみでしょうか。また、後者は前者に比べ簡便に文字割付ができることから階段状に配置してしまいがちです。でもよく見て下さい。けっして綺麗ではないですよね。

 

文字割付の続きは少々お待ちください。

そのほか、地図記号、主題図、地形表現、色などなどを語っていく予定です。

合同会社 前島地図デザイン研究所

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